油圧トルクレンチ vs 油圧テンショナー

ボルト締結を正確に行う必要がある時、最善の締結方法とは何か?今回本誌では、国際的なボルト締結のコンサルティング機関である『ASSET55』のテクニカルダイレクター、ロバートノーブル氏の協力を得て、油圧トルク法と油圧テンショニング法の比較検証を試みた。

ほぼ全ての人間は、これまでの人生のどこかでネジを回した経験があり、トルク法の基本的なコンセプトを理解できるはず。回して締め込むというトルク法は、最も古く、また最もシンプルな方法であり、技術職にゆかりのない一般人にとっては、ボルトを締め付ける唯一の方法です。

手で締め付けるか油圧で締め付けるかに関わらず、トルク法は他の締結方法と比べて理解しやすく、それ故に費用対効果の高い締結方法となっています。かと言って、トルク法についての学習やトレーニングが不要ということにはなりません。

「トルクレンチと一揃いのソケットさえあれば、誰でもかなり幅広いサイズのボルト・ナットを締め付けることができるでしょう。」ボルト締結専門のコンサルティングファーム『ASSET55』のテクニカルダイレクター、ロバート・ノーブル氏は、「技術者にトルク工具の取扱方法を説明するのは容易く、トルク法には不明瞭な点が極めて少ない」と話してくれました。

油圧工具を用いた油圧トルク法には、特にノーブル氏が「トルクにとって最大の敵」であるとする摩擦が大きな障害として立ちはだかります。一般的にボルト・ナットにかけられるトルクのうち、実に90%が摩擦によって奪われてしまいます。これは、締め付けトルクから軸力に転化されるのは、ごく僅かであることを意味しており、トルクとして発生させた力を軸力という別の力に転化させる必要がある点から、トルク法は間接的な締結方法であると言うことができます。トルクから軸力に転化される際に、その90%程度を奪ってしまう摩擦係数は全ての締結体で異なっている(摩擦係数はバラつく)ため、締め付けトルクからどれだけの力が軸力に転化されるのかをピタリと正確に予測することはできません。そこには数多くの要素が複雑に絡み合って来るからです。潤滑剤の使用や表面に付着する微細な汚れ、表面処理の仕上げ等、挙げ始めると切りがない程多くの要素を考慮する必要があるのです。トルク法での締結では、これら諸々の問題をクリアし、得られる軸力を狙った範囲で確実に得られるようにする必要があります。当然ですが、決して容易いことではなく、クリティカルな締結箇所では相当なデメリットになり得ます。

ノーブル氏は、正しいやり方で、トルクレンチ等の測量機能付き工具を使用し、技能を身に付けた作業者が締め付けるのであれば、殆どの場合トルク法での締結は上手ぼ全てのフランジ締結において、これは十分に正確な締結と言えます。だからこそ、トルク法は十分理に適った選択肢であり続けるのです。」

油圧テンショニング法は1970年代に英国のエンジニアであるフレッド・ヒートンが開発し、後にハイドラタイト社、そしてボルタイト社を設立することになります。それから20年以上の月日を経て、油圧テンショナーを使用した締結方法は徐々に浸透し、現在では電力業界や風力発電関連設備、洋上産業にオイル&ガスなど、あらゆる業界において重要なボルト締結に積極的に使用されています。

油圧トルクレンチなどを用いた油圧トルク法に比べ、油圧テンショナーを用いた締結は、より多くの専用備品が必要で、締結までの手順も複雑です。大型のフランジで多くのボルトを締結する場合等ある特定のアプリケーションであれば、油圧テンショニングは油圧トルク法よりも遥かに正確な軸力が得られ、締結完了までに要する時間も短時間で済むため、これは大きなメリットと言えます。こうしたフランジを旧来のトルク法で締め付ける場合、片方に圧が偏ってガスケットを変形させてしまうことのないよう細心の注意を払いながら、慎重に一本一本ボルトを締め込んで行く必要がありました。油圧テンショナーであれば、一気に複数のテンショナーを繋ぎ、複数のボルトを均一の圧で一気に締結することができるのです。

「この点こそが、油圧テンショナーが世に生み出された理由です。」ボルタイトのプロジェクト&コマーシャルマネジャーであるナイティン・ペイテルは油圧テンショナーのメリットをこのように説明します。「油圧テンショナーでの締結は、摩擦に影響を受けるトルク法とは違い、高精度の軸力管理が可能で、尚且つ複数のボルトを等圧で一気に締結することができるのです。圧が偏らないということは、ガスケットにとってもボルトにとってもより良い締結であると言えますし、直接ボルトを引き伸ばすため発生する軸力もおおよそ想定通りの値に落ち着きます。」

油圧テンショニングのもう一つのメリットは、より高精度な軸力管理にありますが、ノーブル氏が指摘するように、全てのケースがそう簡単に片付くわけではありません。「条件さえ揃えば、油圧テンショニングは極めて高精度です。一般に、ボルト径に対してボルト長の割合が大きい、つまり長いボルトで、高い軸力を要する締結が油圧テンショニングには向いています。こうしたアプリケーションでは、油圧テンショニングは油圧トルクよりも優れています。逆にボルト長が短く、軸力の低いボルト締結には不向きです。」

油圧テンショニングにはデメリットもあります。単刀直入に言えば、油圧を解放して軸力がナットに伝達された際に生じる金属なじみによる軸力損失です。これを防ぐためには、発生する軸力損失を予め見積もっておき、その分の軸力を余分にかけておく方法があります。しかしこれは、ボルト・ガスケット・フランジ面全てに必要以上の荷重がかかることを意味し、設計時にも作業時にも材料の耐力等を考慮に入れておく必要があります。それ以外の方法としては、金属なじみの収束後に再度油圧テンショナーで軸力をかけてやる、つまり二回テンショニングを行うという方法もあります。

油圧テンショナーにはコスト面や輸送面でのデメリットもあります。油圧テンショニングには多くの専用備品が必要となるため、得てしてコストが嵩んでしまいます。ノーブル氏は「油圧テンショニングのメカニズムはトルク法に比べ理解するのが難しいものです。専用備品が必要な上、油圧トルクレンチでの作業スペースよりも広いスペースも必要になって来ます。」

結論として、油圧トルク法と油圧テンショニング法のどちらが優れているか、一概に答えることはできないということになります。各ボルト締結体の環境・条件によって最善の締結方法は異なって来るということです。

「全てを一律の理論で説明しようとすれば多くの技術的疑問を抱えることになり、最大公約数的な妥協を受け入れざるを得なくなるケースもあります。そうではなく、その締結体ごとに見極めることが重要なのです。」結論を示すべくノーブル氏は以下のように総括してくれました。「そのボルト締結体のアプリケーションがもつ特徴を把握し、同時にトルク法とテンショニング法双方のメリット・デメリットを正しく理解すること。それが最善の締結方法を知る唯一の方法です。これまで触れて来た各締結方法の特徴が、読者の皆さまが最善の締結方法を選択する一助となることを願っています。」

DID YOU KNOW THAT…

油圧トルク法によりボルト・ナットに伝わるトルクのうち90%は摩擦によって奪われてしまう。

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油圧トルク法か油圧テンショニング法かを選択する際には、ボルト締結体に関する様々なファクターを考慮する必要がある。

  • アプリケーションにとって適正な軸力値を算出する
  • 例えば、構造物基礎のアンカーボルトのようにねじりストレスを避けるべき締結体であればテンショニングが最善の選択であるが、限られたスペースでの作業を強いられる場合は油圧テンショニングより油圧トルク法が適している等、アプリケーションごとの締結体への影響因子を考慮する
  • 物理的制約を甘く見てはいけない。油圧テンショナーの締結では、少なくともボルト径と同じくらいのねじ部がナットから突き出していないと、テンショナーがボルトに十分グリップできない。

 

油圧トルク法と油圧テンショニング法、どちらが最善の締結方法なのかという点については、各締結体ごとに判断する必要がある。

 

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油圧トルク法

油圧トルク法では、油圧の力をトルクに利用します。人間の力では回して締め込むのが難しい場合に、油圧をボルト・ナットを締め込む回転力に利用します。その結果として、ボルトは引き伸ばされ軸力が発生します。しかしトルクが軸力に転化される前に、雄ねじ側・雌ねじ側双方のねじ部と、ボルト・ナットと相手材表面の間には摩擦が発生し、トルクの力が奪われてしまいます。

油圧テンショニング法

油圧テンショナーがボルトに取り付けられ、油圧の力は直接ボルトを引き伸ばすために利用されます。ナットと相手材の間には引き伸ばされた分だけ隙間ができ、その後はナットを着座させるのみ。非常に楽な作業です。油圧が解放されると引き伸ばされたボルトには元に戻ろうとする力が働き、それがそのまま軸力となります。

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