世界を支える文明の「心臓」

2019年に創業100年を迎える酉島製作所。同社はこの1世紀に渡り、確かに文明の心臓と表現されるべきものを作り続けてきた企業である。「心臓」というものは通常、その持ち主さえも意識しない不随意筋で動くものであるが、それと同じくトリシマが作り続けて来たものは絶対的に不可欠であるにも関わらず、意識されることがない。考えてみると、私たちの社会を支えるインフラに関わる人や設備は殆どが人知れず世界中の「当たり前」を支えている。発電所や製鉄所から上下水道等、水が必要とされるところに必ずポンプが活躍していると考えて間違いない。平成21年度に実施された財団法人エネルギー総合工学研究所の調査によると、日本国内では総電力量の約30%がポンプを稼働させるために消費されている。この数字だけでも、いかに多くのポンプが私たちの社会を支えているのか想像するに十分だ。そしてトリシマは、高効率・高信頼性のポンプを世界100か国以上に供給している老舗グローバルメーカーでもある。

100年を迎える今も尚、カイゼンを続ける

トリシマの製品の一つに、発電所のボイラ給水ポンプ等で使用される多段ポンプがある。輪切型のケーシングが特徴的な『MHG』という製品で、世界中で豊富な実績を誇るものであるが、それでも高効率・高信頼性を追求する同社は、同製品を更に進歩させた文字通りの名をもつ『MHG-A(AはAdvancedの意)』を開発した。更なる高効率・高信頼性をもつ同機も、『MHG』同様に高耐圧ケーシング同士を通しボルトで強固に締め付けているが、非常に高い圧力が発生する多段ポンプという機器の性質上、ここは極めて高い軸力精度での締結が求められる重要な締結部であり、ポンプの稼働による高温・高圧および振動という点で非常にシビアな環境となる。

同社はこの通しボルトに求められる締結精度を実現するため、ナットをトルクで回して締め込むよりも、直接ボルトを引き伸ばして軸力に転化するテンショニングの方が有効と判断し、『MHG』では油圧式ボルトテンショナーを採用している。『MHG-A』では、より大径の通しボルトでケーシングを締め付ける必要があり、油圧式ボルトテンショナー以外にも選択肢を持つことが求められた。そこで今回は、酉島製作所 研究開発部 開発課の野間口 慧氏、手塚 啓氏のお二人に当時を振り返ってもらった。

社内に蔓延していた懸念をスーパーボルトが払拭

「テンショナーは複数の締結部を均一の圧で同時に締結できるというメリットがある一方で、内部のOリング(シール)等、テンショナー自体にメンテナンスが必要で、サイズが大きくなると重量も大きくなってしまうというデメリットももっています。そのため、締付方法に他の選択肢があれば顧客サービスの観点からもメリットが広がると考えたんです。」社内の会議でも、従来のMHGよりサイズアップしたMHG-Aの通しボルトをどう締結するのが最善かという議論に相当な時間が費やされたという。「そこで、何ら特殊な工具を使わずに締め付けられる『スーパーボルト』が使えないか、となったんです。」

しかし、スーパーボルトは他に類のない特殊な締結部材だ。採用に当たって不安材料は無かったのだろうか。「かなり多くの実績があると聞いていたので、焼き付き等の心配はあまりしていませんでした。それより狙った軸力が本当に出せるのか。それだけでしたね。」かくして酉島製作所はスーパーボルトの社内試験を実施し、その締結精度を目の当たりにすることとなった。「9本分の締付でスーパーボルトの検証試験をしたのですが、ターゲット軸力に対しての誤差が±5%以内(本検証試験時)という非常に高精度な締付が行えるということが分かりました。以降、社内で締付方法をどうするといった懸念は、全くなくなりましたからね。」

スーパーボルトの利点の一つは、この驚異的な軸力精度にある。これはスーパーボルトの特許構造がもたらすメリットの一つで、狙い通りの軸力が得られるということは、ポンプ稼働中の過酷な環境下でも緩むことなく強固な締結が保持できることをも意味している。このメリットを想定通りに得るため、ノルトロックジャパンはフィールドサポートによってスーパーボルトの適切な締結作業のサポートも行った。手塚氏は当時のことを「製品に関するやり取りも非常に迅速に対応してもらい非常に助かりました。試験の際にも現場で締結作業に関する細かなことまで丁寧に教えてもらえたおかげもあり、大きな不具合もなく無事に試験を終えられました。」と笑顔で語ってくれた。こうして試作機での水圧試験など数々の検証を経て、スーパーボルトはMHG-Aに標準採用された。では、この標準採用はトリシマにとってどのような意義があったのだろうか。

大径ボルトの締結方法に選択肢

野間口氏は、最大のメリットは正確な締付を行うのが困難な大径ボルトの締結方法に「選択肢」が持てるようになったことだと語る。特に同社売上の過半を占める海外向けの出荷については、何らの特殊な設備を用いる必要もなく、誰が作業しても極めて正確な軸力が得られるスーパーボルトを正式に選択肢とできることは、ポンプが安定して稼働し長きに渡って設計想定通りのパフォーマンスを発揮し続けることにも繋がる。

人知れず社会を支える「心臓」

開発担当の手塚氏。柔和で実直な人柄が、ポンプという機器にも通じる。

40年以上の昔からグローバルにポンプを供給し続けて来たトリシマは、2016年にタイとサウジアラビアにサービス工場を設立する等、海外市場でも更なる事業拡大を目指している。このトリシマのような企業に対し、ノルトロックグループには何ができるだろう。多くのグローバル企業は、世界中で製品とサービスを販売しているが、購買が発生した国に売上が付与されてしまう等の理由で国境を跨いだサポートが提供し難い構造にある。汗水垂らして成果を得ても、他国の成績にカウントされてしまうという内部的な理由だ。しかしノルトロックグループは、世界中で同じビジョン・ミッションを共有し、等しく顧客をボルト締結の観点から支える基盤を持っている。例えば今後、トリシマが中南米など他の地域で新たに受注した際、初回のメンテナンスに立ち会って、適正な取外し/締結を現地でサポートすることができる。

酉島製作所は創業100年を迎え、既に次の100年を見据えている。次の1世紀の間には多くの変化が訪れるだろう。IoTは空気のように当然のものとなり、AIの進化は社会構造を変貌させ、現代の人々からは想像すら及ばない世界に私たちは向かって行くだろう。しかし、たった一つだけ言えることがある。どれだけテクノロジーが進化しても、社会の「心臓」が消えて無くなることはない。トリシマのイメージは、派手で華やかなものではないかも知れないが、心臓は元より飾りを必要とはしていない。トリシマのポンプは100年後も、人知れずただ黙々と世界の端々に、もしかすると他の惑星でも、「水」というかけがえのないものを送り届けているだろう。

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FACTS

顧客:株式会社 酉島製作所
海外売上比率:50%(2016年実績)
製品:MHG-A(ボイラ給水ポンプ)
アプリケーション:輪切型ケーシングを固定する通しボルトの締結
採用製品:スーパーボルト(機械式ボルトテンショナー)

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